2年眺めるだけだった「飛行船ホテル」を、やっとなぞり始めた

おえかき

本屋さんでひとめ惚れして連れて帰った本が、2年ぶりに動き出しました。

『ガラスペンでなぞる 飛行船ホテル』。買ったのに、開いては眺めて、そっと閉じるだけ。一度もなぞらないまま2年が過ぎていました。

その本を、先日やっと開きました。きっかけは、ゼンタングルのイベント「To You Tangle 2026」です。

なぞれなかった2年間と、なぞり始められた今日の話を書いてみます。

本屋さんで出会った「飛行船ホテル」

購入したのは2年ほど前。初めてガラスペンを買って、間もない頃でした。

ガラスペンが手元に来て、これで何を書こうかと考えていた時期です。そんなときに本屋さんで見つけたのが、この本でした。

『ガラスペンでなぞる 飛行船ホテル』は、九ポ堂さんの少し不思議な世界をなぞりながら旅する本です。飛行船に乗って空へ、ペガススシップに乗って宇宙へ、リュウグウノツカイ号に乗って深海へ。旅の思い出を手紙にしたためて、切手を貼ってポストに投函する——そんな設定になっています。

ページをめくった瞬間に、この世界観に惹かれました。オールカラーで、用紙は6種類、なぞれる書体はさまざまあり、調べてみると54種類。インクの写りを防ぐ吸取紙まで付いています。

「これは絶対に書きたい」

そう思ってレジに持っていきました。書きたい気持ちは、確かにあったのです。

書けないまま、2年が過ぎました

ところが、家に帰って本を開いたところで、手が止まりました。

「失敗したくない」という気持ち

いざ書こうとすると、別の気持ちが出てきたのです。

失敗したくない。

きれいな本です。紙もいい紙です。ここに自分の線を入れて、もしうまくなぞれなかったら。インクがにじんでしまったら。そう考えると、ペンを持つ手が止まってしまいました。

ガラスペンを買ったばかりで、まだ扱いに慣れていなかったことも大きかったと思います。

眺めるだけでも素敵だった

そしてもうひとつ。この本は、眺めるだけでも十分に素敵でした。

じつは、2年間まったく触っていなかったわけではありません。何度も本棚から取り出しています。

ページをめくって、九ポ堂さんの世界を旅して、書体を目で追って。そして、そっと閉じる。それを何度も繰り返していました(笑)。

読むだけで満足できてしまうのです。だから、書かないまま時間が過ぎていきました。

気がつけば2年。買ったことに満足していた、というのが正直なところです。

To You Tangleが、本を開くきっかけになった

その本が動き出したのは、今年の梅雨でした。

6月17日から7月7日まで開催されたゼンタングルのイベント「To You Tangle 2026」に、私はガラスペンで参加しました。11個のプロンプト(お題)が最初に紹介され、奇数日にひとつずつ描いていくイベントです。

今回、私はタイルを1枚ずつ描くのではなく、スケッチブックに少しずつ描き足していきました。11個のプロンプトを重ねて、最後に一枚の作品になるように。

▶ ガラスペンでゼンタングル|To You Tangle 2026に参加した記録

この期間で、ふたつのことが変わりました。

ひとつは、ガラスペンに慣れたこと。インクをつけて描く感覚、ペンを寝かせる角度、一度にどのくらい書けるか。描き足していくうちに、体が覚えていきました。

もうひとつは、「No Mistakes」の感覚が身についていたこと

ゼンタングルには「間違いはない」という考え方があります。思った線と違う線を引いてしまっても、消さずにその線を活かして描き進める。イベント中も、インクが多く出てしまった部分がかえって味になる、という経験を何度もしました。

一枚の絵として描き足していく形だったので、なおさらでした。前に描いた部分は消せません。予想外の線も含めて、そこにあるものを活かして次を描く。その繰り返しでした。

イベントを終えて、ふと本棚の飛行船ホテルが目に入りました。

そのとき、すっと思ったのです。

「書いて楽しみたい」

失敗したくない気持ちより、書きたい気持ちのほうが大きくなっていました。うまく書けなくてもいい。にじんでもいい。それも味になる。2年前にはなかったその感覚が、本を開かせてくれました。

実際になぞってみて

まだ、最初の見開き1ページと、次のページの途中まで。ほんの少しです。

でも、その少しがとても楽しい時間でした。

物語は、冒険家の叔父さんから届いた一通の手紙から始まります。最初の紙面には封筒やチケットのイラストが描かれていて、眺めているだけで旅心をくすぐられます。最初のページをなぞりながら感じたのは、「ここから旅が始まる」というワクワク感でした。

2年間、眺めるだけだった旅に、やっと出発した感覚です。印刷された線をなぞっているだけなのに、自分がこれから飛び立とうとしているような高揚感がありました。

インクは、いつもの翡翠を使いました。書体はVDLアドミーン、用紙はHSライトフォース。この本は、本文をなぞるページに6種類の用紙が使われていて、書体もさまざま。ページごとに紙とペンの相性が変わっていくので、進めていくのが楽しみです。

実際になぞってみた感想は、思ったよりもスムーズでした。それでいて、一文字一文字ゆっくり書けた気がします。文字の形を目でたどりながら手を動かす感覚は、ゼンタングルで一本の線に集中する時間とよく似ていました。

そして、なぞりながら気づいたことがあります。この本には、こう記されていました。

ガラスペンのほかに、万年筆でも、つけペンでも、ボールペンでもサインペンでも、どんな筆記具を使っても構いません、と。

自由に楽しんでください、ということですね。

この一文を読んで、少し肩の力が抜けました。「正しい書き方」なんてない。好きな道具で、好きなように書けばいい。2年前の私を止めていた「失敗したくない」という気持ちに、本のほうから手を差し伸べてもらえたような気がしました。

なぞり始めてすぐ、新しい気持ちも芽生えました。

別のガラスペンでも書いてみたい。

ペン先の溝の形が違えば、線の出方も変わるはずです。6種類の用紙と、さまざまな書体。紙とペンの組み合わせを試す楽しみもあります。104ページ、まだまだ先は長い。急がずに、少しずつ旅を進めていこうと思います。

まとめ|積ん読は「まだその時じゃない」だけかもしれない

2年寝かせた本を開いてみて、思ったことが3つあります。

  • なぞれなかったのは、道具に慣れていなかったからだった。技術より先に、扱える安心感が必要だったのだと思います
  • 「失敗したくない」を溶かしてくれたのは、ゼンタングルの「No Mistakes」でした。別の場所で身につけた考え方が、思わぬところで効きました。「どんな筆記具でもいい」という本のメッセージにも、背中を押してもらいました
  • 眺めていた2年間も、無駄ではなかった。何度も開いて世界観を味わっていたからこそ、なぞり始めた今がより楽しいのだと思います

買ったまま手をつけていない本、ありませんか。

それはもしかしたら、放置しているのではなく、まだその時が来ていないだけなのかもしれません。道具に慣れたとき、気持ちが変わったとき、ふと開ける日が来ます。

私の飛行船ホテルの旅は、まだ2ページ目です。よかったら、あなたの本棚も少しのぞいてみてください。

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